『MAKINO』

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『MAKINO』(高知新聞社・編/北隆館)

 

著者の牧野富太郎への愛を随所に感じる一冊だ。牧野が北海道の利尻島で植物採集をしたと聞けば、自身も同じく利尻の山に入る。屋久島を訪れたという僅かな記録だけを頼りに縄文杉の森に出向く。牧野が見つけた植物だけではなく、見た景色、歩いた道、吸った空気まで共有しようとする。尋常ではないほどの愛情を牧野に注いでいることが行間からひしひしと滲み出してくる。

牧野富太郎、と聞いてピンと来る人は少ないのかもしれない。日本の植物分類学の礎を築いた人。40万点もの植物標本を収集し、1500もの植物に命名した人。といわれてもなおピンとこない。歴史の教科書に載っていたかもしれない程度の記憶しかない。

そんな明治の一学者に著者はなぜこんなにも惹かれるのか。本書で描かれるエピソードを読めば、何となくわかってくる。借金にまみれながらも本を買うことをやめなかったり、植物採集の途中、河原でぐうぐう眠ってしまったり。なかでもそのお茶目なキャラクターは155ページの写真がすべてを物語っている。78歳にしてなおフィールドワークに出かけていたという牧野を奈良の山中で撮影したもの。木の幹に挟まれ、絶叫しているような顔。なんだこのとぼけたじいちゃんは。周囲に慕われていたという牧野の素顔を見た気がする。

植物学者としての牧野富太郎の痕跡を追うだけでなく、彼の生活や生き方までを追うことで、著者だけでなく牧野への興味は湧いてくる。牧野のライフワークの集大成でもある『牧野新日本植物圖鑑』(北隆館)や、彼のエッセイ『植物記』(ちくま学芸文庫)にもぜひ手を伸ばしてみたい。

 

 

(鳥居)