働くということを考える  『善き書店員』

f:id:keibunshabanbio:20131117192951j:plain

 『善き書店員』(木村俊介/ミシマ社)

 

「善き」とはなにか?「がんばってる」とか「仕事ができる」といったことでは決してない。本書は、書店員という仕事と向き合う人たちの肉声を可能な限り文章にすることでその「善さ」がじわじわとしみこんでくる一冊だ。

たとえば、熊本の長崎書店の長崎さんは、一冊の雑誌であっても売れたかどうかだけで判断してはいけないと考えているという。そこには、ただ合理的に売り上げだけを追いかければいいということではない、本を売ることにに対する姿勢がある。一冊か二冊しか売れないような本であっても、一冊か二冊売れるということに価値をおく。同じ価格、同じ利率であっても、百も二百も売れる本と一冊売るのに苦労する本と、優劣が付けられるものではない。どちらも大切にする。一冊しか売れない本がここにあるということが重要なのだという。それは数字では測ることはできないが、お客さんと店との間に確かに存在する価値だ。 

本書に取り上げられる書店員という仕事には、沈みゆく業界の「かわいそうな人」であったり、そのような状況の中でもとくに奮闘する「英雄」であったりといったデフォルメがある、と著者の木村さんは言う。しかし本書で語られるのは、業界への不満でも、みずからの成功談でもない。一書店員がどのように生きてきたのか。そしてその中でどのように仕事と向き合ってきたのかが描かれる。なにも特別な仕事をしているわけではない、ただただ本と本屋が好きな人たちの声にじっくり耳を傾けたい。

書店員でなくとも、「善く働く」ということを考えさせられる本だ。

 

 

 

(鳥居)