新入荷 『きみの町で』

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『きみの町で』(重松清/朝日出版社

 

大きく分けて2つの内容をもつ本です。11篇の短編のうち、「あの町で」と題された4編は東日本大震災にまつわるお話。理不尽な力によって振り回される人間のちいさな物語は、胸の奥をきゅっとつかまれるような感覚を持ちます。要所要所に添えられたミロコマチコさんの挿絵からも、ささいな葛藤やもどかしさが伝わります。言葉にできない感覚をすくい取り、表現されています。
その前後には、「こども哲学シリーズ」(オスカー・ブルニフィエ/朝日出版社)の付録として書かれた掌編が7つ。それぞれの掌編は、「よいことわるいことってなに?」「自由ってなに?」など、「~ってなに?」という疑問形のタイトルがつけられており、いずれも小学生・高校生・そして著者自身の目線で見た、日常生活で感じる社会への疑問や矛盾に正面から向き合った小説ばかり。なぜ座席をゆずらないといけないの?、なぜ友達の悪口を言ってはいけないの?など、おとなに聞いても「当たり前のことだから」とか「そういうことになってるから」といった、すっきりしない答えしか返ってこない問いに対して、なんとなく納得するのではなく自分なりに考えようとする姿勢を教えてくれます。

すべての話を通して伝わってくるのは、社会のルールや道徳、そして理不尽な災害など、私たちの生活には常に不自由が付きまとう、ということ。著者自身は不自由について次のように語ります。

 

 こっちの世界には、嫌な「不自由」もたくさんあるけど、気持ちいい「不自由」だっていくつもあるんだ。そんな「不自由」を楽しんで、味わって、生きていける「自由」が、俺にはある 


なぜ「あの町で」と「こども哲学」が同時に一冊の本に収録されることになったのかということまで考えてしまう本です。3月11日のできごとがいかに日本人の価値観や道徳といった根本的なところを揺るがした大きな事象であったか、再確認せずにはいられません。

 

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こども哲学シリーズ『自分ってなに?』(オスカー・ブルニフィエ/朝日出版社

 

 

(鳥居)