『あしたから出版社』

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『あしたから出版社』(島田潤一郎/晶文社)〔2014年6月刊行予定〕

 

大切な人のために、何かをしようと思ったことがあっただろうか。「だれがなんといおうとやる。あとのことは、やってから考える。どうなったって、知らない。」というほどの強い思いを持って。

従兄を亡くし、就職もできず、悶々とした日々を過ごしていた著者は、ある日チョロQのように走り出す。お金を借り、アイデアをねり、後先を考えず、たった一冊の本をつくるためだけに。

そうしてできた夏葉社という出版社と、何冊かの本。一冊一冊の本が出来上がる度に島田さんは「出版社をたたみたい」という感情が湧くという。それは決してネガティブな感情ではない。

出版社をたたみたいと思うくらい、やりきったと感じることができたなら、できあがった本は、きっと、いい本なのだ。

そんな島田さんに、悲しいとかつらいといった表情はない。

高知県のとある古本屋さんに仕事のお願いにいったときのこと。どこのだれかもわからない僕をどこか怪訝そうに見ていた店主に、「夏葉社の島田さんにこちらを紹介していただいたんです。」といってみた。その瞬間、店主の空気が一気にほどけた。「そうか。島田君の紹介か。そら協力せにゃいけんね。」そういって店主はほほえんだ。島田さんはそんな人だ。

文中でも、常に親近感のわく軽やかな文章で自らの半生をつづる。独り事務所でつぶやき、歌い、踊る島田さんを想像する。もうおもしろくってしょうがない。読み終えて事務所に電話をかけたとき「よっ。元気?」とか思わず言いそうになって困った。もしかしたら言ったかも知れない。数回しか会ったこともないのに。きっと会ったことのない人でも読めば島田さんとずっと前から友達だったかのような気持ちになる。電話をして、どうでもいい話をしたくなる。そんな人であり、そんな本だ。

 

 

(鳥居)