『10年メモ』と『二十億光年の孤独』

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 『10年メモ』(nu/エヌユー)

 

10年前の今日、どこでなにをしていただろう。ネットや新聞を探しても決して出てこない極私的な記憶。そんな記憶を日記のような力の入ったものではなく、気楽なメモ書きとして残せる『10年メモ』。昨日から今日、今日から明日へと積み重ねられていく記憶のメモが1年ごとにめぐってくる仕掛けは、まだなにも書かれていないページを目の前にしただけでわくわくする。それは懐かしいアルバムを実家の押し入れから発見した時の気持ちに似ているかも知れない。

詩人・谷川俊太郎のデビュー作『二十億光年の孤独』に「日日」と名付けられたこんな一篇がある。

 

ある日僕は思った

僕に持ち上げられないものなんてあるだろうか

次の日僕は思った

僕に持ち上げられるものなんてあるだろうか

暮れやすい日日を僕は

傾斜して歩んでいる

これらの親しい日日が

つぎつぎ後へ駆け去るのを

いぶかしいようなおそれの気持ちでみつめながら

 

流れる時間をおそれる感覚。そんな感覚すら忘れてしまいそうなせわしない生活の中で、『10年メモ』はきっと大切なことを教えてくれるだろう。それが明日か、1年後か、10年後かはわからないが。

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『二十億光年の孤独』(谷川俊太郎/集英社文庫)

 

 

(鳥居)