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『ぼくらの文章教室』

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『ぼくらの文章教室』(高橋源一郎/朝日新聞出版)

 

オビの一文にぐっとくる。「『文章の専門家』や『エラい人』以外の、みんなのための人気の文章教室」。つまり本書は、わたしたちのための、いや、私のための教室だ。立派な論文やたくさんの人が読むための小説ではなく、日常の中にある文章。そんな身近な文章について「いい文章」の例を挙げながらじっくり考える。

といっても教えられるのは、文章を書く際のテクニックや語彙ではない。この教室で一貫して問われるのは「文章は誰のものか」ということだ。誰のために文章を書くのか。自分のためか、どこかの誰かのためか、それとも何かを伝えたいあの人のためか。年老いて半分ボケてしまった作家は、一見難解な小説をなんのために書いたのか。餓死寸前にまで追いつめられた母親が死を前にして残した手記は誰のためにあるのか。さまざまな状況で書かれた文章を通して答えはじわじわと見えてくる。

いい文章というものにはじめて触れたとき、たいていの人はぱっと見ただけでは判断できないのではないか。文章には好みの色もないし、ニオイもしない。味もカタチもない。どんなにきたなく雑な文章も、名文と絶賛される美しい文章も、活字が並んでいるという点では一緒だ。これがいい文章だと教えられてはじめて分かる。最初の一歩は誰しもそうだろう。そんな一歩を踏み出させてくれる、いい文章を書きたいと思わせてくれる、文章を書いてもいいんだと思わせてくれる。そんな一冊だ。

 

 

(鳥居)