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『ナチュラル・ナビゲーション』

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『ナチュラル・ナビゲーション』(トリスタン・グーリー/紀伊國屋書店)

 

ナチュラル・ナビゲーション。聞き慣れない単語である。本書の冒頭50ページ近くにわたってナチュラル・ナビゲーションという言葉について著者の考え方が示される。だがこの長いまえがきを読み進めていくと、そこには人間が本来持っていた知恵や技術の再確認が述べられているだけであって、新しい難解な概念が登場するわけではないことがわかる。

たとえば風。毎日海に出る漁師など一部の人にとっては、風は目にみえない、気まぐれなものではない。風向や風速は1時間後、1分後、1秒後といった単位で察知することができる。それはまったく特殊な能力ではない。健全な感覚とちょっとした基礎的な知識を持っていれば誰にだってわかる類のものだ。天気図の低気圧・高気圧の違いや特徴を知っていればその日どの方角から風が吹いてくるかわかる。陸と海の気温差や、風の吹くシステムをなんとなく頭に入れておけば、風の吹き始める時間や強さが分かる。もっと細かく、目の前の海面に風が吹いているのかいないのか、数分後に風向きは変わるのか一定のままなのか、強くなるのか弱くなるのかといったことも大体のことはわかってしまう。それも熟練の勘に頼るのではなく、何回か自然の中で自分の知識を確認する機会があれば誰にだってわかるものなのだ。そしてそれを逆手にとれば、自分の行きたい方向に風の力だけで行けてしまう。なにも特別な技術ではない。

自然は本来ものすごく単純なものなのかもしれない。太陽はいつだって東から昇るし、ほとんどの木や岩はその場を動かない。そんな当たり前のことを信頼することができれば、自然は私たちにとってちょっと有益な情報になる。ナチュラル・ナビゲーションは、冒険やサバイバルのための知識ばかりではない。たとえマップに載っていなくても、「桜並木をしばらくまっすぐ行って、最後の1本が見えたら右。」と言われたら目的の家にたどり着ける。グルメガイドに載っていなくても、いい匂いがする店にはうまい飯があるだろう。

道具に頼り切った生活から抜け出し、ちょっとだけ自分の身体を信頼した旅にでてみるのもいいかもしれない。

 

 

(鳥居)