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『いい階段の写真集』

バンビオ店の本棚から

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『いい階段の写真集』(ビルマニアカフェ/パイインターナショナル)

 

歩道橋に上るのが好きだ。

国道を行きかう車を見下ろしたり、わくわくしながら電車が来るのを待ったり。地べたにいては見えない景色にどきどきする。階段を上った先に広がる世界を期待しながらトントンと軽やかにあがっていく。別に特別なものは何もなく、想像通りの景色を見下ろすだけなのだが、それがいい。トントンが期待をより高めるのかもしれない。

たぶん多くの人は階段についてそんなに意識したことはない。駅のホームで、マンションの片隅で、私たちは毎日何の気なしに上り下りを繰り返している。踏み外したり、すべり落ちたり、つまずいたり。そこにあるのは機能的で、実用性に優れ、安全で無機質な存在だ。

本書に登場するのは、思わず足を止めてしまいそうなデザインの階段や、ミステリアスな雰囲気の階段、手を伸ばしたくなるような手すりをもった階段、重厚な歴史を感じさせる階段、思わぬところに遊び心の隠された階段など、個性的な階段ばかり。ただ踏むだけではもったいないような階段、昇りきった先に期待するよりも、昇ること自体が目的であってもいいような階段。そんな階段に魅せられた写真家・西岡潔さんの視線はただ階段を眺めるだけにとどまらない。裏へまわれば「段裏」の美しさに、横に立てば「ささら」のふしぎな造形に、踊り場に上がれば階を示すサインの文字に。階段を構成するすべてに熱い視線が注がれる。デザイナーの思いのこもった階段が単なる建造物とは思えない、一つの芸術作品となってしまう。魅せられた者にしかわからない世界。

たとえ身の回りの階段がこの写真集のように美しいデザインでなくても、明日から階段の上り下りがちょっと軽やかに、手すりを掴むのがちょっと丁寧になることは間違いない。

 

 

(鳥居)