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馬だ、馬だ! 『馬の世界史』

バンビオ店の本棚から

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『馬の世界史』(本村凌二/中公文庫)

 

「もし馬がいなかったら、21世紀はまだ古代だった」。そんな仮説から始まる本書は、つまり干支の午年が存在しなくなり、これまでの午年がすべて消滅したと考えると、単純に計算して西暦00年から2014年まで午年は2014÷12=167.83で167回あったわけで、167年分が消滅することになり、今年は西暦1847年ということで、つまりアヘン戦争が終わった5年後だからそれを古代といってもいいなら古代だがしかし・・・、といった話では全然ない。馬と人間の関係を世界史の観点から真面目に深く考察した一冊だ。

現在では競馬場の柵の向こうや、でなければごくまれに神社の境内などで目にすることがある程度の馬。古代、人間たちは野生の馬を家畜として飼いならすことを覚え、やがて彼らにまたがり素晴らしいスピードと馬力を手に入れた。ある時は戦争の道具として、またある時は競馬のような娯楽の対象として利用していった。近代以前に蒸気機関に変わる存在であった馬は、つまり蒸気機関を生み出す元ともなったといえるだろう。本書ではこのような馬と人間の密接な関係を時代を追って描いてゆく。中でも、著者によるはじめて馬車を戦争に利用した場面の描写は秀逸だ。馬の引く戦車にはじめて遭遇した人々の描写である。

はるか遠方に敵の勢力がいるという知らせが入る。(中略)誰かが叫ぶ。「馬だ、馬だ。馬の大群が車をたくさん引っ張って走ってくるぞ。いったい、あれは何だ」。兵士たちの間にぐらぐらと動揺が広がり、隊列が乱れ始める。とめどもない混乱は、もはや、指揮官たちの抑えきれるものではない。(43ページ)

 単なる馬の歴史の論文ではない。著者の馬への愛があふれ出している。でなければこのような描写が描けるだろうか。文中の「馬だ、馬だ」という叫びは、著者がはじめて馬に出会った時の叫びそのものであろう。毎週末、競馬場の門をくぐるという著者。だからこそ書けた一冊である。

 

 

(鳥居)