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本屋のなかの街 『名古屋とちくさ正文館』

バンビオ店の本棚から

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『名古屋とちくさ正文館』(古田一晴/論創社)

 

名古屋にちくさ正文館という書店がある。決して大きな規模ではなく、かといって家族経営の小さな書店でもない、いわゆる街の本屋さん。その本店に勤務する店長の古田さんへのインタビューで構成されたのが本書だ。

タイトルにもあるように、名古屋という街とちくさ正文館とのつながりをひしひしと感じる店だ。最寄りの千種駅周辺に乱立する巨大な予備校に囲まれた街をそのまま切り取ったかのような駅前店の広い学習参考書売り場もそのひとつだろう。だがそれよりも印象的なのが本店の本棚。地元の劇場やクラブハウスのイベント案内を入り口にアート・カルチャーの棚が展開され、そこから人文社会系、哲学・思想・歴史、そして文学・詩歌といったジャンルにいたる。この店を取り巻く街に、たしかな思想を持った文化が受け継がれていたのだろうことがこの本棚から見ることができる。棚全体を通じて、名古屋という街の一部分を見ているような気持ちになる売り場。それは現在の名古屋の街ではもうないのかもしれないが。

 本書の中で古田さんが語る書店業界の歴史や、棚作り・店づくりに対する考え方やテクニック、そして「カリスマ書店員」という言葉やそれを生み出してしまった業界に対する警告、毎年ある時期になると全国の書店で一斉に開催される変わり栄えのないフェアに対する強烈な批判などは、読んでいてとてもおもしろい。だがそれは一部の業界の人間にしかわからないものだ。ただ、どのようにしてちくさ正文館が古田さんという人を通して名古屋の街と関わり、歩んできたかという点は、書店という業種だけでなくあらゆるお店やそこにかかわるすべての人にとって参考になるのではないだろうか。

 

 

(鳥居)