日常をはなれて 『じつは、わたくしこういうものです』

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『じつは、わたくしこういうものです』(クラフト・エヴィング商會/文春文庫)

 

フィクションなのか、リアルなのか。あいまいな18の仕事人へのインタビュー集。「チョッキ食堂」「コルク・レスキュー隊」「シチュー当番」など、登場するのはありそうでなさそうな、ちょっと不思議な感触の職業ばかり。

たとえば「ひらめきランプ交換人」は、人がひらめいたときに頭の上に表れるあの電球を交換してくれる。誰しもがもっているひらめきのランプ。最近ひらめいてないあなた。「あっ」とひらめいた拍子に切れちゃったランプをくるくるっと交換してもらってはどうだろうか。ランプではなく、ソケットが悪くなっている場合もあるようだが。

登場する仕事人たちはみんなちょっとこわばったような表情を浮かべて写真に写っている。ちょっと特別な場にお呼ばれしたような表情。このインタビューもまた、彼らにとっての普段の仕事ではない、非日常なのだろう。日常と非日常の境界が何層にも重なって存在している一冊だ。

「文庫版のためのあとがき」で著者のクラフト・エヴィング商會はこう書いている。

 

日常があるから架空が際立つんです。日常をないがしろにしてはいけません。(中略)だって、日常の方が面白いですからね。みんな、気づいていないだけなんです―――いや、ホントの話。

 

日常から架空を眺める私たちには見えないものが、架空から日常を見つめている彼らには見えているのかもしれない。本書を開いているひとときだけでも、架空の世界の住人の仲間入りしてみたい。読書後にはなにが見えるのだろうか。

 

 

(鳥居)