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のんべえによる、のんべえのための『のんべえ春秋 3』

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『のんべえ春秋 3』(木村衣有子/木村半次郎商店)

 

文筆家・木村衣有子さんのつづるお酒にまつわる小話が詰まったリトルプレスの第三弾。小説あり、エッセイあり、酒器にまつわる裏話ありと記事の幅は今号でも多様だ。酒を軸としてはじまる話題は、まるで居酒屋に居座るのんべえたちのとりとめのない会話のようにゆらりゆらりと広がってゆく。

ホシさんの食べるカレーライスが気になりつつももらいそびれたり、ホシさんに持ってきたツナ缶を渡すタイミングをなんとなく逃がしたりといった飲み屋での何でもない視点で展開される酒場小説「ホシさんと飲んでいる」は、酒場を舞台にゆるゆると進むストーリー。互いに気をつかわないふたりの居酒屋ならではの力の抜け具合をいつまでも眺めたくなる。

特集では、京都市北区ある工房『酒器 今宵堂』を取材。お猪口や徳利など酒器を専門に扱うお二人の店主からうつわ作りへの想いや工房の成り立ちを聴きつつも、最後にはきちんと脱線しておすすめのおつまみの話をそっと教えてくれる。

酒にまつわるエッセイのテーマは、居酒屋に縁が深いたぬきについて。その語りはでんとふんぞり返る信楽焼のたぬきから、臭くてうまくないというたぬき汁、きつねとの違いがぼんやりとしたたぬきうどん、さらには街のちいさなケーキ屋のショーケースに並ぶたぬきケーキの話題まで、のらりくらりと話を変えながら綴る。

いずれの文章も、読み手を酒場に巻き込んで一緒に飲んでいるような、あるいはだらだらと飲む二人の会話を後ろの席からぼんやり眺めているような気分にさせる。

お酒の席では細々としたウンチクや説教臭い話はしたくないもの。肩肘張って礼儀作法やこだわりを語るのではなく、「酔った上での武勇伝を競うわけでもなく、たしなむ程度と腰が引けても居ない、ちょうどいい塩梅を目指しています。」という編集方針で記された記事に、あやふやな気分でゆったり耳を傾けたくなる、まるでぬる燗のような居心地のいい一冊だ。 

 

 

(鳥居)