普通ってなに? 『変り兜 戦国のCOOL DESIGN』
とんぼの本『変り兜 戦国のCOOL DESIGN』(橋本麻里/新潮社)
戦国時代の戦がどのようなものだったのか、私には想像することしかできない。だが、本書を眺めているとかなりのんびりした戦いを思い描いてしまうのである。なにしろ頭に大きなハマグリをのっけた大将に率いられた軍団と、鉄のなすびをかぶった大将率いる軍団が相まみえるのである。はまぐり対なすび。言葉だけ切り取ればおとぎ話の世界である。それとも海辺のバーベキューか。なんてほほえましいんだ。
兜は戦国時代の武将たちにとって戦場での敵への威嚇、手柄のアピールのためのアイテムであった。そこには、いつからか過剰なまでの美意識が盛りに盛られ、「戦国武将的『兜は見た目が9割』マインド」が形成されていったのだという。
過剰と一口にいっても、その線引きは難しい。額に家紋を掲げるのはよかった。星や三日月も強そうだ。昆虫はどうか。ムカデなんか威嚇にはもってこいだろう。目立ちたいなら羽はどうか。植物はどうだ。竹なんか強そうだ。毛虫は。ナスは。ハマグリは。
いつの間にやらとんでもないところに行きついてしまった。もう後には戻れない。ロウソク立てにしか見えない輪切りの竹を頭にのっけて、ゲジゲジの眉毛にしか見えない毛虫をかぶって、男たちは戦った。戦いに勝って帰る自らの姿を彼はどう見たのだろうか。それはもちろん「勝って兜の緒を締めよ」である。さらに過剰に、斬新に。男たちの戦いは終わらない。
一枚一枚の兜の写真から妄想は尽きることがない。
(鳥居)