街の「あそび」再発見 『 cococu -おうみの暮らしかたろぐ- 』

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『 cococu -おうみの暮らしかたろぐ- 』vol.4 (cococu編集部)

 

どんなささいなものにも隙間がある。この街にも、あの駅にも、そしていま座っているこの椅子にも。

そんなことを改めて教えてくれるのが、京都のおとなり滋賀県発のリトルプレス『 cococu -おうみの暮らしかたろぐ- 』。編集しているのは滋賀県立大学の研究室だ。すでにvol.4まで発行されており、創刊号は「おうみの暮らしかた」、vol.2は「おうみのしごと」、vol.3は「おうみをたべる」をそれぞれテーマとして滋賀県各地に生活の一部として残る伝統的なモノ・コトをていねいに紹介する。

今年の3月に発行されたvol.4のテーマは、「おうみのあそび」。「あそび」とはホビーやレジャーではなく、クルマのハンドルのぐらぐらのような、日常の隙間やゆとりといった意味。

そう考えれば、滋賀で最もおおきな「あそび」は琵琶湖であろう。京阪電車の浜大津駅を降りると建物のあいだから視界に飛び込んでくる深い青色の水をたたえた空間。のっそりとミシガンが出港し、ちいさなヨットが湖面を行きかい、浜辺を人がのんびり散歩する、あの空間こそビルが立ち並ぶ街の「あそび」ではないだろうか。休日に一人乗りのヨットで目的地を決めずに出艇し、沖でぼんやり比良の山々を眺めている時間は最高に贅沢だと思う。

そんな「あそび」を持つ滋賀で培われてきた暮らしのゆとりをもっとも感じさせてくれるのが、本書に登場する長浜の花火工場のエピソード。普通は周囲の住民とのあいだで騒音など問題が起こりやすい花火の試験打ちを、柿木花火工場の近所の人たちは楽しみにしているのだそう。職人さんの仕事の一環で行っている作業すら楽しんでしまうゆとり。代々引き継がれてきた滋賀の大切な遺産だ。

季節の変わり目のこの時期、隙間を求めてお出掛けしてみるのもいいかもしれない。

 

 

(鳥居)