極私的ガイドブック 『マイ京都慕情』

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『マイ京都慕情』(みうらじゅん/新潮社)

 

京都で生まれ育った、著者みうらじゅんの幼いころの町やエピソードをもとに構成されたガイドブック。高校卒業までを京都で過ごした著者の京都への思い入れがじわじわと伝わってくる。小学校のころに過ごした大将軍周辺や、仏像に目覚めた東寺、ロックにはまった京大西部講堂など18歳で京都から離れるまでの記憶をたどることができる一冊だ。極私的ガイドブックと銘打たれた通り、本当に個人的な思い出の場所だけをめぐっている。そんなことが可能なのも京都という町であるからこそだろう。


僕が育った町では、はたして思い出の地をいくつめぐれるのだろうか。小学校のころに住んでいた町内は丸ごと高速道路になり、通っていたスイミングスクールは巨大なマンションに変わった。バス停の目の前にいたカーネルサンダースはもういない。かつての町が特に飛びぬけて魅力的だったわけではないし、なくなったからといって価値あるものが失われたわけではない。しかしないとなるとやはりさみしいのかもしれない。何の変哲もない町だが、改めて思い返すとなんとなく人がいて、区別は一切されていないのにバスが止まる場所や車が通る道などなんとなくルールがあったJRの駅前や、毎日のように秘密基地を作り、怒られ、それでも忍び込んでいた産業廃棄物の処理場の山も、大きくなるにつれなにもない広場やただのゴミの山にしか見えなくなってきたとはいえ、今となってはかなり魅力的な場所に思えてくる。


本書の中でも、日常からの脱出を試みる著者が映画館や音楽といった非日常に魅了されていった様子をたどることができる。しかしそんななかでも生まれた町への愛着をつよく感じる。単に過去を美化するのではなく、当時の自分の生活があった場所をたどっているだけなのだが、そこにはなんともいえない愛着を感じるのだ。

そして本書はそんな一個人の思い出話さえもガイドブックにしてしまっている。思い出話がガイドブックになってしまう町。京都の懐の深さをあらためて思い知らされる一冊である。

 

(鳥居)