新入荷 『本屋図鑑』

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『本屋図鑑』(本屋図鑑編集部・得地直美/夏葉社)

日本全国の「街の本屋さん」を取材して完成した『本屋図鑑』が入荷しました。

「図鑑」と銘打ってある通り、本書は本屋入門のためのテキストです。本屋の立地や棚のジャンル分け、さらに流通の形態や一日の仕事の流れまで詳しく説明してくれます。その例として挙げられるのが、47の都道府県をくまなく取材して探し出された数々の本屋さん。紀伊國屋やTSUTAYAといったナショナルチェーンから小さな個人経営の本屋まで、誰もが一度は行ったことのある、ベーシックなイメージの本屋さんを取り上げます。旅行雑誌などで特集を組まれるような、休日にわざわざ行きたくなるようなちょっとおしゃれな本屋をガイド的に紹介するのではありません。各店舗の詳しいアクセスや営業時間は記載されていないのがその意志の表れでしょうか。セレクトショップやネットショップが注目され、ニーズを集める今だからこそ、顔の見えるあの人のために週刊誌を一冊一冊品出しし、注文品に細心の注意を払う仕事が注目されるべきなのかもしれません。
象徴的なのがお客さんとのやり取りを描いた記事の多さ。どの店でも筆者が棚や店構えだけでなく、店主の振舞いや訪れたお客さんの雰囲気などをじっくり見つめた視線が伝わってきます。そのような人と人との生きた付き合いが浮かび上がってくる店を選んで取材されていた、というべきでしょうか。そこからは、一見さんがふらりと立ち寄っただけでは決して生まれ得ない、長い年月をかけて作り上げられたお店とお客さんとの関係性がみえてきます。なにもそれはレジでかならず挨拶するとか、お客さんの顔をすべて覚えているとかいったことだけではありません。仕入れの時に、名前も知らないあの人がよろこびそうだな、とふと思い浮かぶとか、そういった目に見えない部分も店主とお客さんとの会話と呼んでいいのかもしれません。
誇りとか理想といったおおげさなものではないにしても、書店人がなにを考えて日々過ごしているのか、その一端がこうして形となったことはうれしく思います。と同時に一書店員として背筋が伸びる思いです。

とはいえ、ページをめくっていると、出かけた帰りに長岡天神阪急電車を降りてなにを買うでもなく文京堂の狭い店内を何周もぐるぐるまわったことや、学校の帰りに友達とラクセーヌで買い食いして葵書房で立ち読みしたことなど、本書には掲載されていない、個人的な思い出がよみがえってきます。掲載された本屋さんの中に、なんとなく立ち寄っていた帯屋町のちいさな金高堂をみつけ、そこがなんとも魅力的な思い出の場所に思えてしまうのもうれしい体験です。挙句の果てには行ったこともない本屋さんが懐かしく思えてきてしまうほど。
写真ではなくイラストで本屋の景色を紹介しているのも本書の特徴のひとつ。三月書房の迷宮のような本棚や、田村書店の一直線にのびる広大な店内、そして長谷川書店のわくわくするほどぎゅうぎゅうに詰まった棚など、知っているから楽しめるお店はもちろん、知らない街の知らなかった本屋さんの雰囲気までも楽しめます。

動物図鑑を眺めて育った子が獣医さんになりたいと夢見るように、本屋図鑑を眺めて育つ子が本屋さんにあこがれるような、本屋という職業をあらためて読ませてくれる、街の本屋に与えられた使命をひしひしと感じさせてくれる一冊です。


(鳥居)