新入荷 『土屋耕一のことばの遊び場。』

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『ことばの遊び場。』(土屋耕一 和田誠糸井重里 編/東京糸井重里事務所)

 

戒名までも回文であった(シコウインコウトウコンイウコシ)という、コピーライターの土屋耕一が遺した数々のことばが、丁寧な造本によって「回文の愉しみ」と「ことばの遊びと考え」という二冊組の本にまとめられました。編集したのは和田誠糸井重里の二人です。

「回文の愉しみ」の編集を担当したのは和田誠土屋耕一が遺した「軽い機敏な仔猫何匹いるか」といった回文(上から読んでも下から読んでも同じ言葉)をはじめとした言葉遊びに関するいくつかの原稿を収録しています。中でも回文について、読者への講義形式をとった連載「回文実技講座」は、例文のひとつひとつが見事としか言いようのない美しい日本語になっています。

たとえば、「桜という言葉を使って回文を作る」というお題に対しては、

 

 桜は楽さ

 

といった基本形からはじまり、

 

 桜の木、堤で見つつ気の楽さ 

 

と、五・七・五の形式にまでさらりとあてはめて見せます。この講座の中で土屋は、濁音や促音(っ)、拗音(ゃゅょ)までも忠実に回文になるように、など自らに厳しいルールを課しながら、美しい回文との遊び方を教えてくれます。生徒となった読者の投稿の中には和田誠の名前も。

同じ広告制作会社の同僚であった二人は、あまりにも有名なたばこの銘柄「ピース」の広告デザイン・コピーなどを手掛けたコンビでした。作品集『地にはピース』では和田の描く世界に、土屋がコピーを付けた絶妙な世界を堪能できます。このコピー、なんとすべて同じ文字数だったとか。

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『地にはピース』(たばこと塩の博物館)

 

もう一冊の「ことばの遊びと考え」を編集したのは、土屋を「ことばの名人」としたう糸井重里。ここでは仕事としてのコピーライターを再確認させられます。一篇一篇の小さなコラムにもていねいな言葉を紡いだ土屋のプロ意識と、それに向き合う糸井の姿勢に感服させられます。

言葉遊びの楽しさは、誰でも、その場で参加できること。しかし、「ぼくもここにつくって見せようとして、つくれぬまま時が過ぎました。」という糸井重里の言葉が、その意外な難しさと魅力を言い表しているような気がします。

 

 

(鳥居)